


お母さん、僕、明日の今頃、えっと13時間後には、もう屋根に上っているのかな?
そうだよ、でもけいごは強いから、きっとできるよ。だから今日はもう寝なさい。
お母さん。
何?
僕、あと12時間と53分後にはどうしても屋根に上らないといけないのかな?
そうだよ、神様はけいごができるからこそ、このおしごとをあたえてくれたのよ。だから今日はもう寝なさい。
そうか、そうだよね、わかった。。。。
だけどお母さん、僕、あと12時間と50分後には、どうしても、どうしても屋根に上らなければいけないのかな?
あのね、けいご。明日お母さんは不倫相手のバイト先の店長さんとデートなの。お母さん、寝ないとお化粧のノリがいまひとつになるから、がんばって一緒に寝ようね。あと、けいご、明日、お母さん帰るの遅いから先に寝ててね。
お母さんは次の日もその次の日も結局帰ってことなかった。僕はあれからずっと屋根の上に居る。延々に屋根を塗っている。屋根の上でおにぎりを食べ、うんこは煙突に詰め込んでいる。どういうわけか、屋根の上のそんな姿を見て好きになってくれる人も現れた。結婚をした。下に見えるのが妻だ。同じ高さで顔を見たことが無い。上からみる彼女はとにかく鼻がでかい。それが邪魔になって口は見たことがない。ここまで書いて、これ以上は戻すのが難しくなりそうだからここらで止める。
それにしても何回やっても屋根に登るのは怖いにゃあ。
今回は流石にでかふぐりちじまるでございやす。
下ではムラが作業が遅れ気味の薪割りをせっせとやっているのが見えるでしょうか? まだ9月だけど完全に冬支度。特にうちらみたいな生活スタイルは、夏は冬の準備のためにあるようなもの。一年の内、半分が冬。だけどもっと言えば、完全に冬のことが頭から消えてる期間って三ヶ月間ぐらいじゃない? まったくひでぇところさ(笑)だけどだからこその夏なんですよね。ほんとあっという間だったな。
夏にぶっちぎられた僕は胸のオダりが消えないうちに腕にイルカのタトゥを入れた、ウソ。
それにしてもなんで我が家ばっかり屋根が異様にボロボロになるんだべか? 身体から塗装に有害な物質でも出てるんだべか? 豚ガツを焼酎で流し込んだ後のゲップが塗装に致命的に良くないとか(笑)塗装がボロボロでも別にいいんだけど、これをほおっておくとですね、冬に怖いくらいのっこり屋根に雪が載っかるのでやらざる得ないんですよ。
でもね、ここきて、やったことないことはいっぱいありましたからね。もう慣れた。分かった。「やったるわ!」そのスイッチを入れさえすれば、無理に思えることでも大体のことは出来るようになる。ちょっとぐらい高所恐怖症だって屋根ぐらい登れるようになる。万事がやる気っすよ。だから、俺が面接で見るところもそこだね(やったことあんのか)それがあるやつは、最初はダメでも後々伸びるよね(だからやったことあんのか)
ま、その「やったるわ!」スイッチを入れてもさ、少女が人生ではじめて見る鳩にえさをあげるような、そんな感じで、ちょろちょろと、おっかなびっくりで手を動かすのが精一杯なわけですが。だけど、そんないっぱいいっぱいの夫を知ってか知らずか、ムラが、例の鼻が邪魔して口を見たことがない妻がさ、ちょちょいとネットで調べてこう言うわけさ。
ふむふむ、結局、下地が完全じゃないと何をやっても無駄なのであーる。だから全部綺麗に剥がして、その上から下地を丁寧に塗って、その上から塗装しないとダメなのであーる!
むかっ!
おめ、おめーよ、それやるのに俺、何回、屋根往復しなきゃいけないと思ってるんだよ。それやったほうがいいなんてさ、最初からわかってんだよ!一回自分で屋根に登ってみろよ!おめーは自分でやりもしないくせに理想語る日本の某首相かよ!
ごめん言い過ぎた。
オラ、あまりに怖くてやりたくないから声を荒げたんだけど、最後の方、ムラ、全然聞いてないの(笑)
ムラも強くなったよなぁ、いろんな意味で。
ま、その日はご褒美なのかビールを買ってきてくれたからね。そんなわけで、自分的にはもうかなりやり遂げた感があるんだけど、実はもう片面残ってる(笑)
お母さん、今度は新しいお父さんを連れてきてくれるかな。